大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

秋田地方裁判所 昭和23年(行)35号 判決 1949年2月14日

原告

篠木正次

秋田司法事務局西馬音内出張所司法事務官

被告

石川淳藏

主文

本訴は却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

請求の趣旨

原告は被告が昭和二十三年四月二十日及び同月二十七日なした雄勝郡三輪村杉宮所在の三輪神社並びに元稻田神社の設立登記は之を取消すとの判決を求める。

事実

原告は三輪神社及び元稻田神社の主管者であるが昭和二十一年六月中昭和二十一年勅令第七十号附則第二項により法定期間内に右両神社設立の爲規則書その他附属書類を添え宗教法人設立の届出を秋田縣知事になし同知事は右届出に基き被告に之が登記の囑託をなしたところ被告は昭和二十三年二月十六日規則書に不備の点があることを理由として登記囑託書類を秋田縣知事に返戻し同知事は原告の前記届出を却下する旨の書面と共に関係書類を更に原告に返送し右縣知事の届出不受理処分により両神社の設立届出は法定期間内になされなかつたことに確定した然るに同年三月十七日訴外三輪〓男は両神社の主管者なりとして秋田縣知事に対し新神社規則の届出をなし同知事は右届出が既に法定期間を経過した後の届出であるに拘らず違法に之を受理し同年四月二十日被告に対しその登記嘱託をな 被告も敍上の経過を知りながら違法に之を受理し両神社の設立登記をなした。しかし右登記は(1)法定期間経過後作成の規則書に基く登記嘱託による違法の登記であるばかりでなく(2)登記嘱託書添附の新規則書には法定の公益事業に関する事項の明記なく(3)新規則書末尾には主管者二名の記名捺印があるのに登記には一名の登記よりなく(4)新規則書本文には氏子総代は十一名となつて居るのに氏子総代十名の記名捺印よりなく(5)新規則書の作成年月日昭和二十三年 月 日とあるを昭和二十一年七月一日と訂正してあるのにその訂正印なく(6)法定の承認書がなく(7)三輪神社登記嘱託書の秋田縣知事名下の印影と訂正印とは同一でなく以上幾多の不備があつたのに拘らず被告は之を受理登記したものであつて該登記は違法無効のものであるから之が取消を求める。

と陳述した。

被告は原告の請求棄却の判決を求め答弁として、原告主張事実中被告が昭和二十三年二月十六日秋田縣縣知事に対し書類不備の理由で本件両神社の登記嘱託書類を返戻した事実同年四月二十日秋田縣縣知事から再度両神社の登記嘱託を受け之を受理しその設立登記をなした事実並びに右再度の嘱託書類に原告主張の(2)及び(4)乃至(7)の如き点があり又同(3)の如き登を記なした事実は之を認めるがその他の原告主張事実は知らない。

と答へ抗弁として

(イ)  登記については、登記官吏に対し、行政訴訟を以て登記の取消を求めることができない。蓋し違法な神社設立登記の抹消更正については、別に法律を以て裁判上の救済方法が規定されている(宗敎法人令第五條、宗敎法人令施行規則第二十一條非訟事件手続法第百四十八條ノ二、第百五十一條乃至第百五十一條ノ四)。從つて、これらの方法によらず裁判所に対し直ちに抹消を求めることは許されない。

(ロ)  仮りに、登記の取消の訴の提起が許されるとしても、原告は本件登記嘱託の当事者でもなく、本件登記の取消を求めるについて、何等法律上の利害関係を有する者ではない。從つて原告のなす登記取消の訴は訴の利益を欠くものである。

(ハ)  行政処分としての本件登記には違法の廉がない。

行政処分の取消は、当該処分が違法であつた場合にだけ許される。然るに登記にあつては、登記官吏は、登記の申請又は嘱託が形式上の要件を完備する限り、これを受理すべきものであつて、実質上の要件を審査して登記を拒むことは許されない。即ち行政処分としての登記は、形式上の要件を具備した申請又は嘱託によつて爲された場合には、常に適法なものと謂わざるを得ない。斯くして爲された登記が、実質上の要件に欠けるところがあつても、その爲行政処分としての登記が違法なることはなく、眞実に合致しない登記の是正は別に考慮されるべきである。而して本件においては本件登記の嘱託について、原告主張のような欠缺のないことは次項で述べる通りであり。嘱託としての形式上の要件に何等欠けるところがなかつたのであるから、登記官吏の爲した登記の処分は適法である。

(ニ)  原告は、本件登記嘱託書の附属書類に(1)乃至(7)の七項目に亘る欠陷があると主張するがそれは左記のようにいずれも理由がない。

(1)本件神社規則は書面の形式体裁に照し法定期間内たる昭和二十一年七月一日に作成されたものと認めらるべきである。それが法定期間後に作成された原始規則とは全然別個のものであるか否かは、実質的審査の範囲に属し被告にはその審査権はない。

(2)公益事業に関する事項を神社規則の記載事項とした宗敎法人令第三條第二項第一号及び昭和二十一年勅令第七十号附則第三項の規定は当該宗敎法人が学校又は病院の経営等公益事業を営む場合にはこれを記載することを要する趣旨で、かかる事業を経営しないときは、その記載を要しないものと解すべきである。

(昭和二十一年三月二十二日民事甲第一七〇号民事局長通牒参照)

(3)本件神社の主管者二名のうち一名の登記を脱漏したとしても、それは更正登記によつて是正され得るものであつて、登記自体の無効又は取消原因となるものではない。(宗敎法人令施行規則第二十一條非訟事件手続法第百四十八條及び第百五十一條ノ六参照)

(4)本件各神社規則第二十六條によれば、氏子総代の定数は十一名であるが、同第十三條によれば氏子総代代表者は同時に主管者となり規則末尾には主管者として記名捺印しているから、本件神社規則の氏子総代の記名捺印には欠けるところがない。

(5)神社規則作成年月日の記入を訂正し、これに捺印しなかつたとしても、登記の無効又は取消の原因となることはない。

(6)本件登記は、昭和二十一年勅令第七十号附則第五項の規定に依る登記であるから、その嘱託書には神社規則の添附があれば足り、宗敎法人令施行規則第十六條に依る神社設立登記の場合のように承認書の添附を必要としない。

(7)登記嘱託書における訂正印は、知事名下と異つていても、それが知事の印であることが確定できる本件においては、嘱託書は違法とはならない。

と陳述した。

理由

原告の本訴請求は之を要するに登記官廳たる被告が宗敎法人たる神社の設立に関する地方長官の登記嘱託を違法に受理登記したものとしてその処分の無効を主張し之が取消を求めるにあるのであるが登記官廳がなした斯る違法処分に関する救済を求めるには非訟事件手続法に從い所定の手続を経て管轄登記所に対し当該登記の抹消或は変更を申請し其申請の容れられた場合は之に対し所轄裁判所への抗告申立の方法によるべく而して斯る司法上の救済手段の定めある行政処分に付ては行政廳を被告としてその処分取消の訴を提起し得ざるものと解するよつて本訴に付いてはその実体に入つて判断することなく之を不適法として却下し訴訟費用に付ては民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例